八月一日 「中日新聞」社説。

 今日の「中日」の社説は、格調高く読ませる内容だ。「朝日」などの全国紙社説担当者は、こういう格調高い、内容のあるものを書けなくなっている。

17歳の決意に応える
2010年8月1日

 負の遺産を背負って生きる覚悟がなければ、未来を切り開くことは困難でしょう。沖縄の少女が表明した決意は、本土の人々にも原点回帰を迫ります。

 戦争放棄と戦力不保持を定めた日本国憲法第九条を、日本各地の方言で表現したCDが、大学一年生、十八、九歳の若者約百人の前で再生されました。

 その地域を象徴する祭りばやしや雑踏の騒音などに続いて「方言第九条」が流れます。津軽、岩手県水沢、名古屋、京都、大阪と南下し、一段とにぎやかなせみ時雨が響きました。

 その瞬間、「次は広島」と当てたのは一人でした。

◆忘れられつつある過去
 戦争-暑い夏-原爆、あるいは敗戦記念日…高齢の日本人には当たり前の連想が、若者には当たり前ではありません。原子爆弾を意味する“ピカ”や“ピカドン”は死語になりかけています。

 原爆を落とされ、太平洋戦争が終わってから六十五年目の八月を迎えました。広島、長崎の原爆死没者名簿には既に計四十万人以上が登録され、毎年八千人以上が追加されます。戦争の傷跡もさまざまな形でまだ残っています。

 しかし、過去は日本社会でも急速に忘れられつつあるように見えます。

 9・11テロの直後、米国のアフガン空爆を支持した日本政府の立ち位置やまなざしは、B29で日本中をじゅうたん爆撃した米政府のそれと同じでした。

 焼夷(しょうい)弾の雨の中を逃げ惑った同胞や廃墟(はいきょ)と化した都市の姿は、空爆を容認した人の記憶から消えていたのではないでしょうか。

 敗戦間近の一九四五年四月、二十三歳で戦死した三重県宇治山田市生まれの詩人、竹内浩三は「戦死やあわれ/兵隊の死ぬるや あわれ」で始まる、有名な「骨のうたう」を残しました。その詩にこんな部分があります。

◆負の遺産を正に変える
 白い箱にて 故国をながめる/音もなく なんにもなく/帰っては きましたけれど/故国の人のよそよそしさや/…がらがらどんどんと事務と常識が流れ/故国は発展にいそがしかった…

 遺骨となって「白い箱」で帰国した戦死者に対するよそよそしさをうたっています。戦争の狂気を恐れながら死んだ浩三は、過去を振り返ろうとしない故国の将来を見通していたかのようです。

 今年六月二十三日、沖縄県主催の沖縄全戦没者追悼式で「変えてゆく」と題した詩が朗読されました。作者で朗読者の名嘉司央里さんは十七歳の高校三年生、「方言第九条」のCDを聞いた若者と同世代です。

 目を背けてはならない/悲しい負の遺産/それを負から正に変えてゆく/それがこの遺産を背負い生きてゆく/私達(わたしたち)にできること

 題名の通り十七歳の決意表明です。名嘉さんに決意させたのは沖縄の現実でした。

 当たり前に基地があって/当たり前にヘリが飛んでいて/当たり前に爆弾実験が行われて(詩の一節)います。

 それにひきかえせみ時雨から原爆を連想できなかった本土の若者の前に広がるのは、平和でのどかな風景です。彼らは先人が現行憲法を歓迎した背景にある事実を、直接体験していません。世界各地の紛争に無関心でも生きていられます。広島を思いつかないのは無理ないかもしれません。

 若者に過去がきちんと継承されていないとすれば、責められるべきは大人でしょう。

 潘基文国連事務総長、ルース駐日米大使の広島訪問という朗報の陰で、広島平和記念資料館を訪れる修学旅行生の激減は気がかりです。昨年は二十年前の半分、特に高校生は三割弱です。

 戦争を知らない若者も、沖縄の地上戦に動員された女学生「ひめゆり学徒隊」の話には強い衝撃を受けます。多数の兵士や友の死になすすべもなく、自分は九死に一生を得た婦人の体験談に涙を流す感性は有しているのです。次の時代を担う人々に「戦争の現実」を伝えなければなりません。

 しかし、教師の間から「広島見学を提案しにくい雰囲気がある」との声が聞こえてきます。

 海外志向、楽しさ重視など理由はいろいろあるでしょう。ただ、戦後レジームからの脱却、自主憲法制定など、戦後体制を否定する数年来の議論が広島訪問を一層ためらわせてもいるようです。

◆未来を見つめ知恵絞る
 「負から正に変えてゆく」-名嘉さんの決意に応えるには、被害だけでなく、加害も含めた負の遺産の教訓を継承することが大前提になります。

 決して再現してはならない過去を心にとどめ、未来を見つめ知恵を絞れば、日本にふさわしい独自の針路が見つかるはずです。


http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2010080102000053.html

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